ワーキングケアラー
[ワーキングケアラー]
ワーキングケアラーのケーススタディ
役員・管理職世代の十人に一人が介護者
企業の介護支援は育児支援以上に遅れがち
総務省の「就業構造基本調査」は5年に1度実施される大規模調査で、昨年7月に発表された平成24年版では、就業者が現在介護をしているか否かを調べる項目が初めて設けられました。近年、職に就きながら家族や親族の介護を担う勤労者が増えているといわれますが、その実態は調査結果によっても裏付けられました。「ワーキングケアラー」は、全国に300万人近くもいることが明らかになったのです。
就業者全体(6442万人)からみると、介護をしている人の割合は5%弱。ところがこれを年齢別にみると、問題は極めて深刻であるといわざるを得ません。多くの企業で役員世代・管理職世代にあたる50歳代後半では10%台に達し、60代全体でも9%を超えています。皮肉にも、働き盛りで経験豊富な職場のリーダーにワーキングケアラーが多く、公私とも責任や負担が集中しやすい、危うい構図が浮かび上がってきたのです。
こうした貴重な人材が仕事と介護の両立に悩んで業務に支障を来したり、最悪、離職に追い込まれたりするような事態が大量に発生すれば、企業の経営をゆるがしかねません。現に、平成23年10月からの24年9月までの1年間で、家族の介護のために退職した人は10万1000人、19年からの5年間では48万7000人にも上っています。
現時点では「仕事と育児の両立支援もこれからなのに、介護との両立支援にまではなかなか手が回らない」という企業が少なくありませんが、すでに一部企業には、ワーキングケアラーのサポートに乗り出している先進事例もあります。
積水ハウス(大阪府大阪市)では、昨年春に過去10年の自己都合退職者の退職理由を調べたところ、約6%の元社員が「親族の介護」を理由に辞めていたことがわかりました。そこで、介護休業の取得期間を従来の1年から通算2年に延長。回数制限もなく分割して取得できるように改め、対象になる家族も同居や扶養の有無といった条件を緩和するなど、介護支援制度の大幅な拡充に踏み切りました。ワーク・ライフ・バランス推進の一環として介護支援に取り組む総合商社の丸紅(東京都千代田区)では、子育てに比べて表面化しにくい介護の問題を組織内で共有。実際に介護の当事者となる前の“予備軍”の段階から、社員に広く内外の支援策を伝えるなど、仕事との両立に向けた啓発や相談活動に注力しています。同社が開催する社員向けの「介護セミナー」や「介護個別相談会」には、毎回、募集人数を上回る申し込みがあるといいます。
日本の高齢化率は世界一。一方で現役世代は兄弟姉妹の数が少なく、未婚率が高いのが実情です。親の介護に直面したとき、どうすれば仕事を続けられるのか。個人にとっても、企業にとっても、仕事と介護の両立は待ったなしの課題といえるでしょう。