人口オーナス期
[ジンコウオーナスキ]
「人口オーナス期」とは、少子高齢化が進み、人口構成上、生産年齢人口(15歳以上65歳未満)に対するそれ以外の従属人口(年少人口と老年人口の合計)の割合が高まる時期のことをいいます。オーナス(onus)とは、英語で「重荷、負担」の意味。この時期は、生産年齢人口の急減と高齢人口の急増が同時に進行し、人口構成の変化が経済発展にとって重荷になることから人口オーナス期と呼ばれます。一方、これとは逆に、従属人口の比率が低下する局面を、その変化が経済にプラスに働くことから「人口ボーナス期」と言います。
人口オーナス期のケーススタディ
支える人より支えられる人が増える社会
成長の重荷、日本が世界で最も早く経験
従属人口の比率が高まる「人口オーナス期」とは、端的に言うと、働いて社会・経済を支える側よりも支えられる側のほうが多くなってしまう状況で、この人口の動きが経済にとっては逆風になります。社会保障費の負担が増大する一方、貯蓄率が低下し、投資も低迷、成長率を引き下げることになるためです。両親と子ども二人の四人家族で、四人とも働いて生計を一にしていたのが、両親が引退して、一人、二人と支えられる側に回ると、一人当たり所得が減り、家計が苦しくなると同じ理屈です。
一方、四人家族で両親だけが働いていた時期から、子どもも働き始めて働き手が増えていけば、一人当たりの所得が増え、家計は着実に楽になっていきます。人口ボーナス期の構造的な変化はこれと同じことです。子どもが働き手に成長し、やがて親が引退していくという家族の変化のたとえからもわかるように、時間の経過とともに連続して現れるのが、人口ボーナス期と人口オーナス期の特徴です。つまり、人口ボーナスの状態はやがて局面が変わり、人口オーナスの状態へと移っていくのです。
戦後の日本がまさにそうでした。日本では、団塊の世代が生産年齢人口に到達した1960年前後から人口ボーナス期に入りました。働き手がどんどん増える一方、支えるべき高齢世代の数はまだ少ない。この人口構成は70年ごろまで続き、ちょうど高度成長期に重なります。日本が高度成長を成し遂げたのは、人口構造の変化に下支えされた必然でもあったわけです。現在は中国、韓国、タイ、シンガポールなどが人口ボーナス期にあり、60年~90年代のいわゆる“東アジアの奇跡”もほとんどが人口ボーナスによって説明できるといわれています。
しかし人口ボーナス期は長くは続きません。少子化で、新たに生産年齢人口に到達する人の数が減っていく一方、かつて出生率が高かった時期に生まれた世代が高齢者になっていくため、従属人口の比率が高まっていくからです。すでに日本は、90年代に人口オーナス期に突入しています。中国は数年前までボーナス期真っ盛りでしたが、 2010年代半ばには人口オーナス期に入る見通しです。
日本は世界の主要国で最も早く人口オーナス期入りを経験しました。人口オーナス期に入った社会が経済成長を維持するには、社会保障を整備するとともに、女性や高齢者などの雇用促進による労働力率の底上げ、生産性の向上に資する技術革新やイノベーションの創発などが重要な課題となります。とりわけ人事・労務領域においては、来るべき大介護時代に備えるために、仕事と介護の両立支援や働き方の改革など、企業に期待される役割は少なくありません。