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受動喫煙
[ジュドウキツエン]

「受動喫煙」とは、喫煙者本人ではなく、その周囲の人々が自分の意思とは関係なしに、たばこの煙を吸い込んでしまうことを言う言葉です。たばこの煙は、喫煙する本人が直接吸い込む「主流煙」と火のついたたばこの先から立ち上る「副流煙」、喫煙者が吐き出す「呼出煙」に分かれます。「受動喫煙」では、このうち副流煙と呼出煙が拡散し混合して発生する有害物質にさらされるため、がんや脳卒中、心筋梗塞、呼吸器疾患などさまざまな病気のリスクが高まり、妊婦や胎児にも悪影響をおよぼすことがわかっています。近年、「受動喫煙」は社会全体で取り組むべき問題として認識されており、労働安全衛生法にも2017年6月から受動喫煙対策についての企業の努力義務が明記されました。

受動喫煙のケーススタディ

日本は世界最低レベルの「たばこ対策後進国」
上司の“吸っていい?”は明らかなスモハラ

灰皿などに置かれたたばこから立ち上る副流煙には、喫煙者が吸い込む主流煙に比べ、ニコチンが2.8倍、タールが3.4倍、一酸化炭素が4.7倍も多く含有されているといわれます。この副流煙などにさらされ、自分の意思と関係なく吸い込んでしまう「受動喫煙」が人々の健康に多大な害をなし、社会的コストならびに経済的コストの重大な増加を招いていることは、いまや世界の常識といっていいでしょう。

日本でも2003年に健康増進法が施行。学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店など多数が利用する施設の管理者に、受動喫煙の防止に必要な対策を講じる努力義務規定が設けられました。これを機に、同年には「職場における喫煙対策のためのガイドライン」が改定され、非喫煙場所に煙が漏れない喫煙室の設置が推奨されるなど、労働安全衛生分野における受動喫煙防止の取り組みも、本格的に進み始めたのです。15年6月からは労働安全衛生法が改正され、職場での受動喫煙防止に向けた企業努力が、大小問わず、すべての事業者に義務付けられました。

しかし世界的に見ると、日本の受動喫煙対策はまだまだ遅れており、WHO(世界保健機関)のレポートでは「たばこ対策後進国」と記述されているほどです。欧米諸国と比較して遅れているだけでなく、同レポートによると、公共の場所でのたばこ対策および受動喫煙対策で、日本は世界最低レベル。ベトナム、タイ、フィリピンなどのアジア諸国や、インド、ブラジルなどの新興国よりも遅れを取っていることは、あまり知られていないのではないでしょうか。現在、法制化が進められている受動喫煙防止法案(健康増進法改正案)は、その遅れを取り戻すチャンスと言われていますが、飲食店での原則禁煙をめぐる調整が難航し、5月末現在、国会審議の目途すら立っていません。

一方、企業の現場では「スモハラ」(スモークハラスメントの略)をめぐるトラブルや訴訟も増えつつあります。スモハラとは、喫煙者が非喫煙者に対してたばこを吸うことを強制したり、受動喫煙を避けられない状況を強いたりする、喫煙に関する嫌がらせ行為のことです。ある調査では、上司に「たばこを吸っていいか」と聞かれたときに「断りたくても断りきれない」と回答した人は6割にのぼりました。周囲に非喫煙者の部下がいても、了解さえ取れば吸っていいという認識では、上下関係に弱い日本人の習性につけこんだ「スモハラ」といわれても仕方がありません。受動喫煙による健康被害で企業が従業員に訴えられた場合の裁判所の考え方も、15年6月の安衛法改正を契機に風向きが変わり、企業の責任について厳格化しているといわれます。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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